世界の歴史〈10〉西域 (河出文庫)



世界の歴史〈10〉西域 (河出文庫)

ジャンル:歴史,日本史,西洋史,世界史
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世界史の空白地帯を埋める

「西域」とは中国の言葉であり中国から見た西方地域をさしている。それは時代が進み、中国人の西方世界に関する知識が広まるに伴って拡大を続けた地域であった。本書ではそれは「内陸アジアというのに近い」とされその対象地域はイラン国境にまで及んでいる。日本人にとって西域の知識は主に中国の古典によっており、中国人の見方に重なりあうとしても、西域はより狭く限定された地域であった。言うまでもなく、この「内陸アジア」では幾多の王朝の興亡が繰り返された。それはチンギス・ハーンやティムールに限られるものではない。しかしこれらの王朝の政治的変転にもかかわらず、常にそこにあって、今日に至っても世界史上に光輝を放っているのは東西の商業的、文化的交流を仲立ちした長大なシルク・ロードである。もし今日の歴史的関心が政治ばかりではなく、古来からの人々の生き方にも焦点を合わせつつあるとすれば、西洋による世界支配だけではなく、世界史の表舞台から退場して久しいこの内陸、中央アジアにも目を向けなければならない。加えて今日の政治的状況は知られることの少ないこの広大な地域をも飲み込む勢いにある。
本書は錯綜した歴史と地形をもつ「内陸アジア」をただ一巻の書物に収めようという野心的な試みであった。当然と言うべきか、いまだに類書は乏しい。著者数が4人に上る以上、幾多の工夫が凝らされたに違いないが、なお数多の人物、地名、地形、王朝、またそれらの相互関係の理解には多大の努力を要求される。本書から多くを得ていながらなおもう一工夫あってしかるべきというのが評者の率直な感想である。
この時代にこの世界

 けちを付けようと思えば、いくらでも出来るのでは、というのが偽らざる感想です。 

 それの理由を二、三挙げるなら、まずはその内容の薄さです。この様なタイプのシリーズでは、その傾向は避けられないものでしょうが、本書は先史時代から、二十世紀までを扱っているという事情からか、それがよりひどい。また、西域探険史にも特別に章を割り当てているのだから、より一層紙幅は圧迫されます。私には蛇足に見えて仕方ない先史時代の記述を合わせると100ページにもなり、最後にまとめて詰め込んだかのような諸ハン国の説明を見るにつけ、この100ページには恨めしい思いです。

 もうひとつ許せないのが、執筆分担が明白でないことです。これでは内容に本当に信が置けません。大体執筆者はその内容に責任を持つべきであろう事からいっても、どんなに錯綜した分担であったとしてもそれを明記するのが当たり前と考えている私としては、どうもしっくりこないものを感じざるを得ませんでした。

 しかし、手ごろな中央アジア史が少ない中で、本書は貴重であるとは言えると思います。お値段も手ごろですし、イスラム以前から続く、西域としてみたこの地域、という視点も良いものだと思います。複雑な言語、民族、宗教、国家、社会が入り混じるこの世界は、他の地域に無い不思議な魅力があります。ひとつの民族、ひとつの国家、ひとつの思想と、なんでもかんでも一点に集めようという近代の流れ。その中で生まれた歴史学によって作られた歴史に食傷気味になったとき、てんでばらばらでありながらも、そこそこうまくやっていた西域史は新鮮です。今は砂漠の中だからこそ、現代のしがらみから自由であり、異種の思考で回る今とは別の世界をそのまま見せてくれるのでしょうか。とにかく問題は多々ありますが、西域という時代に触れる手軽な入門書として価値ある一冊ではあります。
入門書として

 今から30年ほど以前に書かれたカラー版・世界の歴史10「西域」の文庫化です。今日となっては若干古めかしい箇所も認められますが、中央ユーラシア地域の歴史入門書としては読みやすい本と言えましょう。 ハザール汗国に関する記述が見出されないし、ギリシア・ラテン語の表記などは全くお粗末な限りではあるものの(例えば、同一ページ内に「セレウコス」なるギリシア語形と「アンティオクス」なるラテン語形と「ビーナス」なる英語形が混在している等)、とりあえず1冊の文庫で手軽に「西域史」を読んでおきたい若い人々にはオススメ出来る袖珍本です。



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